関東地域だけでなく関西地域もコロナウイルスの影響が大きく、JR西日本も乗客率の減少に苦しめられています。
そんな「JR西日本(西日本旅客鉄道)」の本決算が4月30日に開示されました。
今回は西日本旅客鉄道の決算資料を読み解きながら企業研究していきます。

コロナの影響で新幹線がガラガラみたいだね…さすがに影響が大きそうだけど利益はどうなのかな?

福知山線の事故があったけど、安全の徹底はしてるのかな?

JR西日本も倒産するんじゃないかって言う人がいたけど大丈夫だろうか?
企業プロフィール
沿革
- 1987国鉄民営化に伴い西日本旅客鉄道設立
- 1995阪神・淡路大震災発生
- 2004完全民営化達成
- 2005福知山線列車事故発生
JR東日本に遅れること2年、2004年には完全民営化を達成しています。
その翌年、2005年に発生した福知山線列車事故では乗客・運転士合わせて100名以上が死亡する歴史的な大惨事となってしまいました。
この事故はJR西日本にとって最重要な出来事であり、2006年には安全研究所も設立されるなど、安全意識の高まりに繋がっています。
規模
国内第二の都市である大阪を含む、2府16県の広範囲が営業地域である一方、JR3社で比較するとJR西日本は時価総額が低いことが目立ちます(2020年6月現在)。
JR東日本 | JR西日本 | JR東海 | |
時価総額 | 3.3兆円 | 1.3兆円 | 3.9兆円 |
売上高 | 2.9兆円 | 1.5兆円 | 1.8兆円 |
営業キロや人口差からJR東日本との差はイメージ通りかと思います。
JR東海との差に関しては、JR東海は大都市圏の関東と関西を繋ぐ「東海道新幹線」を保有しており、非常に安定した収益が見込めることが挙げられます。
平均年収と役員報酬
平均年収 | 平均年齢 | |
2018年度 | 670万円 | 39.5歳 |
2019年度 | 662万円 | 39.0歳 |
30後半の平均年収が400万円前半なので、比較的高めの水準と言えるでしょう。

取締役は12人で総額が4億9,300万円なので、単純に割ると1人当たり4,108万円です。
そのうち1億円を超える報酬を受け取っている人はいません。
事業内容
その他の事業には、ホテル業、旅行業及び建設事業等が含まれます。

運輸事業が利益全体の約64%を生み出していますが、不動産事業も約20%と比較的大きなウェイトを占めています。これはJR東日本とほぼ同じ構造です。
また、利益以上の多額な減価償却費が計上されている特徴も鉄道業界共通であり、一定の収益がないと一気に利益が減少してしまいます。
利用客減少で収益に影響も一定の利益は確保
県をまたぐ移動自粛により鉄道業界へのダメージが顕在化し始めたことにより、JR西日本の2019年度決算は減収減益となりました。

2020年1月以降の列車利用状況を見ると、3、4月に各路線において40~90%の利用客数の減少を確認できます。
特に緊急事態宣言の発動があった4月の減少量は凄まじく、2020年4~6月期の決算は非常に悪いことが確実です。
この利用客数の減少による利益への影響は以下の通りです。

2018年度から運輸収入は166億円減少しています。曜日配列や台風等の様々な収入増減要因がある中で、新型コロナウイルス関連の減少影響が目立ちます。
ただし、特殊要因を除いた「基礎トレンド」は増加傾向にあり、今回の大幅減益は一時的なものであるため、騒動が落ち着けば十分取り返しのつく状況です。
このような運輸収入の減少により連結決算も収益悪化していますが、JR東日本ほどの営業利益の大きな落ち込みはありません。

これはJR東日本の営業費用が約3%増加した一方で、JR西日本は約1%の増加と、営業費用の増え方に違いがあることが大きな原因です。
同業のJR東日本については以下の記事を参考にしてください。JR東日本の営業費用が嵩んでいる理由がわかります。
- 乗客数の40~90%減少で収益を棄損
- JR東日本と比べ営業費用の増加率が低く、利益の減少は小幅
積極的な安全への投資
JR西日本は2005年に引き起こしてしまった事故の反省から安全を非常に意識していることが決算資料からも伝わってきます。

安全を最重要課題に挙げており、鉄道労災や人身事故の件数を決算資料内で公表しています。
ホーム柵設置の影響等もあり、人身事故の件数が年々減少していることが印象的です。
また、安全意識の高さは設備投資にも表れています。5か年の中期計画においても全設備投資額のうち約半分を安全に費やしていることがわかります。

その分、JR東日本と比較すると成長投資が少々抑え気味ではありますが、最重要課題を安全と据えるJR西日本らしさでもあるので、基盤を固めて成長ステージを迎えることを期待します。
- 人身事故の件数は年々減少
- 安全投資に積極的
手元資金は少なめ
乗客率の減少は関東に限ったものではなく、関西圏のJR西日本でも、収入がなくなり倒産するとの噂があります。JR東日本の記事と同様に、その可能性を探るために財務状況を見ていきましょう。
まずは、短期間で返済する必要のある流動負債の項目です。

流動負債は2019年度末時点で約6,600億円あります。JR東日本同様に特に未払金のウェイトが大きいことがわかります。続いて資産の保有量を見ていきます。

現金及び預金が約800億円と流動負債に対して1/8程度です。JR東日本のこの比率は1/10程度であるため、ほとんど同じであることがわかります。
このように鉄道事業全体で、現金・預金を多量に保有しないことが一般的なのです。
しかし、コロナウイルスによる乗客数の激減は既に解消が始まっており、JR東日本同様に直近で倒産することはまずありえないと言えます。
- 手元資金の少なさは鉄道業界共通
- 数か月程度であれば借り入れなくとも問題なし
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