2011年3月の福島第一原子力発電所事故に伴い政府支援で再建中の東京電力。他のエネルギー企業とは財務的に悪い意味で一線を画す企業です。
そんな電力業界の「東京電力HD」の本決算が5月15日に開示されました。
今回はエネルギーの視点から東京電力の決算資料を見ていきたいと思います。

2019年度は大幅な減益みたい…理由はやっぱり原発関係なのかな?

火力部門をJERAに移管した影響はどこかに現れるのかな?

発電、送電、販売に分社化したけど一番ヤバいのはどこだろう?
企業プロフィール
沿革
東京電力の起源は、電力王とも称される松永安左エ門が関東配電と日本発送電を再編して設立した、東京電力株式会社です。
2011年の東日本大震災により廃炉費用が嵩み、官民ファンド「原子力損害賠償・廃炉等支援機構」によって株式の大半が取得されたため、事実上国有となっています。

また、2016年からは電力自由化に際し、持ち株会社体制となりロゴを刷新しています。

規模
時価総額はわずか6,000億円で、同じ関東圏を管轄する東京ガスとの時価総額の差は約2倍にもなっています。

電力販売量に関しては減少傾向にあるものの、HPでイタリア一国分の電力を供給していると謳うように、国内の大半の電力を供給しています。

平均年収と役員報酬
平均年収 | 平均年齢 | |
2018年度 | 806万円 | 45.3歳 |
40後半の平均年収が400万円後半なので、かなり高めの水準と言えるでしょう。ただしHDなので高めの数字が出る傾向があります。

受取対象となる取締役は1人で2,300万円です(2018年度)。また執行役は15人で、総額が3億4,000万円なので、単純に割ると1人当たり2267万円です。
そのうち1億円を超える報酬を受け取っている人は誰もいません。
事業内容
また、2020年度から再エネ事業を行う「リニューアブルパワー」が加わります。

大幅減益の理由は廃炉費用
東京電力の2019年度連結決算は、売上高がわずかな減少に留まったものの、最終利益が約2000億円減少(△78.2%)するというものでした。

この最終利益が大幅に減少した理由は、莫大な特別損失(6,093億円)にあります。

特別利益も4,149億円とかなりの額が計上されていますが、相殺しても特別損益は△1,943億円です。この数字により最終利益が前期比で約2,000億円の減少となったのです。
そんな莫大な特別損失の中でも、最も大きな損失を計上した「災害特別損失」の項目を詳細に示したのが以下の図になります。

災害特別損失3,949億円のうち、大部分である3,501億円を損失計上しているのが「燃料デブリ取り出し」であるとわかります。
燃料デブリとは、超高温になって溶け出した核燃料が、周囲の金属部材等を溶かした後に冷えて固まった“放射性のゴミ”を指します。
危険性が高いため容易に近づくことができず、廃炉に向かって取り出しを急ピッチで進めたいものの難航しています。

そんな燃料デブリの取り出しが、2021年12月に試験的開始となるため、その取り出しにかかる費用を2019年度に計上したのです。
廃炉までの道のりはまだまだ長く、このような特別損失の計上による減益は今後も避けられないでしょう。
- 燃料デブリの取り出しにより利益が激減
- 今後も廃炉作業が続くため減益は不可避
JERA設立で資産が減少
東京電力は、2019年に中部電力と折半して火力発電事業を独立して行うJERAを設立しました。この影響が今期の決算書に表れています。

貸借対照表において汽力発電設備(≒火力発電設備)の項目が2018年度は9,900億円も計上されていましたが2019年度には消滅しています。
このように新会社を設立すると、資産の移管により貸借対照表がスマートになります。

- 東京電力と中部電力で火力部門を切り離した
- JERA設立により資産が減少
分社化後、一番ヤバいのは小売事業か!?
2016年に東京電力は分社化し、火力発電事業の「FP」、送配電事業の「PG」、小売事業の「EP」、そして2020年には再エネ事業の「RP」が誕生しました。
再エネ事業の分社化は不必要にも思えますが、ここには再エネ事業で稼ぎたい東電の思惑が表れています。
その背景には近年の環境配慮型経営を評価する流れにより、金融機関が石炭・石油を多用する企業から資金撤退(ダイベストメント)を実施する例が増加していることがあります。
電力会社も石炭を多用することからダイベストメントの対象になりやすく、実際にニュージーランド公的年金基金のNZスーパーファンドは東電HDを投資対象から除外しました。
そこで東電HDは再エネ事業を敢えて分社化することにより、再エネ事業会社単独で資金調達をしやすくし、集めた資金を使って収益の柱を創ろうと考えているのです。
そんな投資資金の集まりやすい再エネ事業は今後伸びていく可能性を誰しも感じる事業ですが、残る3つの事業会社については今後どうなるのでしょうか。

一般的に業界では、電力自由化により競争が激化した小売事業(東電においてはEP)が今後最も厳しいと言われています。
それに対し、今後も総括原価方式の送配電事業は比較的安定と考えられます。
実際に東電の事業別の利益を見ることで、この通説が正しいのか見てみましょう。まずは、火力発電事業を抱える「FP」です。

2019年度に関してはエネルギー価格の急落の影響(期ずれ影響)により、安い燃料で発電が行えたことで大幅な増益となっています。
エネルギー価格急落については、以下の記事でも触れているのでご参考下さい。
次に送電線や配電線(電柱に架かる電線)を利用して、送配電事業を行う「PG」です。

エリア需要が減少したことで、託送収益が落ちているのがわかります。ここで重要なのが、販売電力ではなくエリア需要である点です。
国内の電力需要は頭打ちをしており、今後も緩やかな減衰が予想されるため、いくら総括原価方式とは言え、電力需要の減衰に従い収益も緩やかに減少していくでしょう。
また、2022年には託送料金においても総括原価方式が廃止される予定なので、経営手腕によっては今後収益性が落ちる可能性があります。
そして、最後に小売事業を抱える「EP」です。

電力販売の減少がかなりのインパクトであることがわかります。EPはPGと異なり、販売電力量がキーファクターとなります。
つまり、EPは国内の電力需要減少分だけでなく、販売電力量の減少分まで2重にダメージを受けることになるのです。
2019年度はわずかに80億kWhの販売量減(約△3.5%)であったにもかかわらず、17%も収益が悪化しています。現状で電力小売事業はかなり厳しいことがわかりますね。
そこで顧客獲得のために、東電EPでは2020年6月1日から従来月額330円で提供していた「生活かけつけサービス」を無償化するなど、各社差別化に必死なのです。
- 発電事業は燃料費の下落で利益が膨らむ
- 送配電事業は国内電力需要の減少に従い減衰
- 小売事業は国内電力需要の減少と新電力への顧客流出で大打撃
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