住友化学の大規模な投資に関するニュースを目にした方も多いのではないでしょうか。リスクに備え、積極的な攻めの経営をしているのです。
そんな「住友化学」の本決算が5月15日に開示されました。
今回は住友化学の決算資料を読み解きながら企業研究していきます。

住友化学って何を作ってるの?やっぱり化学業界だと石油化学製品を扱ってるのかな?

住友化学と言えば子会社に大日本住友製薬があるし、医薬品事業が強そう!結構安定なんじゃない?
企業プロフィール
沿革
- 1913住友総本店の直営事業として肥料製造所を設置
- 1925株式会社住友肥料製造所として独立
- 1934住友化学工業株式会社に商号変更
- 1946日新化学工業株式会社に商号変更
- 1952住友化学工業株式会社に再商号変更
- 1984稲畑産業株式会社との間で住友製薬株式会社を設立
- 2004住友化学株式会社に商号変更
- 2005住友製薬株式会社と大日本製薬株式会社が合併し、大日本住友製薬株式会社設立
住友化学は肥料製造事業を元祖としていることもあり、現在でも事業部門に農業関連事業を有しています。
企業形態としては同じ財閥系の三菱ケミカルHDが田辺三菱製薬を子会社に抱えるように、住友化学も大日本住友製薬を抱えています。
規模
住友化学は、化学業界の中で三菱ケミカルHDに次いで化学業界国内第二位の地位にあります(2020年6月現在)。
三菱ケミカルHD | 住友化学 | 旭化成 | |
売上高 | 3.6兆円 | 2.2兆円 | 2.2兆円 |
時価総額 | 9,500億円 | 6,000億円 | 1.3兆円 |
平均年収と役員報酬
平均年収 | 平均年齢 | |
2018年度 | 904万円 | 40.7歳 |
40代前半の平均年収が400万円後半なので、かなり高めの水準と言えるでしょう。

取締役は10人で総額が7億2,800万円なので、単純に割ると1人当たり7,280万円です。
そのうち1億円を超えるのは前会長と現会長の2人でそれぞれ1億2,800万円です。
事業内容
その他の事業には、電力・蒸気の供給、化学産業設備の設計・工事監督、運送・倉庫業務および物性分析・環境分析業務等が含まれます。

主要事業は石油化学事業と医薬品事業で売上高ベースにおいて全体の5割以上を占めています。
利益ベースでは景気に左右されにくい医薬品事業が大きな割合を占めていることから、景気に左右されやすい石油化学事業のバッファーとして機能しています。
これはヘルスケア事業が成長段階の三菱ケミカルHDと対照的であり、今後の成長に影響を与える可能性があります。
原油暴落による減益と「ラービグ」のリスク
2019年度の年間業績は売上収益が4%減である一方、営業利益は△25%となっています。

営業利益を圧迫した最も大きな原因はセグメント別の営業利益を見ると、営業利益が約76%減少した石油化学事業にあることがわかります。

これは1月に始まった原油価格の暴落に並行して、住友化学の石油化学事業で扱うメタアクリル等の商品価格が一気に下がったことによります。
原料価格と製品価格の差による利益減少は旭化成の記事に詳しく記載しているのでご参考にしてください。
このように、化学事業を抱える企業は原油価格(原料価格)が、利益を一時的に棄損することがあるのですが、住友化学にとっては原油価格は更に重要な意味を持ちます。
それが住友化学が莫大な資金を投入してサウジアラビア国営石油会社のサウジアラムコと進める「ラービグ計画」です。
この計画は2004年5月に着手開始された総事業費約2兆円にも上る世界最大級の石油精製・石油化学複合プラント建設事業で、石油化学事業の競争力強化を主目的としています。
特にエチレン製造において通常原料として使用するナフサではなく、中東地域の格安なエタンを使用することで、超低コストで稼働させることが可能になります。

そのため2015年には国内(千葉)におけるエチレン生産設備を停止し、国内からラービグ(海外)へと主軸を移したのです。
そんなラービグを拡張し高付加価値製品を製造する第二期計画が2019年に商業運転開始の段階に到達しました。

海外大規模プロジェクトで頻繁に見られる文化的な違いによるトラブルを乗り越え、第二期も安定稼働に突入しましたが、これまでの投資額は約1兆円に上ります。
これから莫大な投資額を回収しなければなりませんが、2019年度の石油化学事業の利益はわずか145億円です。
これは原油価格と石油化学製品価格の下落により、せっかくの格安な原料コストという競争力を最大限発揮できていない現状が原因となっています。
このように石油化学事業の大改革を行う住友化学にとって、原油暴落や石油化学製品価格の下落は財務リスクにも繋がる重大な問題なのです。
- 石油化学事業は避けられない石化製品価格下落による減益
- ラービグ計画によりエチレン製造に圧倒的な強み
- 約1兆円の莫大な投資回収に暗雲
主力医薬品「ラツーダ」のパテントクリフと備え
石油化学事業における投資回収に暗雲が立ち込める中、16%と比較的高利益率の医薬品事業においても住友化学は莫大な投資を開始しました。
それがRoivant社との提携です。これに伴い住友化学は約3,000億円の投資を実行しました。

石油化学事業で大規模な投資を実行するこの時期に、医薬品事業においてもこれほど大きな買収を実行する理由には、パテントクリフのリスクの高まりが挙げられます。
これまで住友化学の医薬品事業を担う大日本住友製薬の主力薬は抗精神病薬「ラツーダ」であり、売上収益の大部分を頼っている状態でした。

このラツーダの特許が争いの末、2023年2月下旬までと決まり、この時期を境に後発薬が生まれパテントクリフに見舞われる可能性が指摘されているのです。
そこで住友化学は投資の嵩む時期にRoivant社への出資に踏み切ったのです。
Roivant社とその子会社は、フェーズ3(発売前の最終試験)に到達した医薬品を7種抱えており、早期の利益獲得も可能と考えたのでしょう。
また住友化学は暗雲の立ち込める主力の石油化学事業と、パテントクリフの迫る次点の医薬品事業に次ぐ、第三の柱の構築も目指しています。
それが健康・農業関連事業です。もともと肥料製造事業から始まった同社にとっては原点に立ち返ることになります。

現状では全事業の中で最も利益額の小さな健康・農業関連事業ですが、2020年4月には豪Nufarm社の南米事業に約900億円の投資を実行しました。
そして棒グラフのように現在300億円程度の南米売上高を、約7倍の2,000億円まで伸ばすことを目標としています。
このように主力事業のリスクに備えるために投資を惜しまず、積極的にバックアップを模索しているのです。
- 医薬品事業の大部分を稼ぐ「ラツーダ」のパテントクリフ
- Roivant社への投資により医薬品事業のリスクを軽減
- Nufarmの南米事業買収により第3の柱構築を急ぐ
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