金属の中でも需要の高まりにより価格が高騰する非鉄金属。国内外に多くの鉱山資源を保有している「住友金属鉱山」の本決算が5月8日に開示されました。
今回は住友金属鉱山の決算資料を読み解きながら企業研究していきます。

中国の台頭で鉄鋼業界は厳しそうだけど、非鉄業界はどうなんだろう?

住友金属鉱山と言えばパナソニックのイメージが大きいけど、どれくらい関係が深いのかな?
企業プロフィール
沿革
住友金属鉱山は日本三大財閥の一つである住友財閥を誕生させることになった銅精錬事業を抱える、言わば住友財閥の起源です。
また、約20年前の1999年には子会社のJCOが原子力事故(東海村JCO臨界事故)を起こし、一時親会社の住友金属鉱山も経営危機に陥ったことは有名です。
JCO臨界事故前後で事業ポートフォリオが大きく変化しており、この事故は住友金属鉱山にとって大きな転換点となったことがわかります。

決算説明資料の中でも、災害件数の報告ページが用意されており、安全に対する強い意識がうかがえます。
規模
同業には三菱財閥系の三菱マテリアル(時価総額3,000億円)、三井財閥系の三井金属鉱業(1,200億円)などがありますが、住友金属鉱山は8,300億円と他社を圧倒しています。
資源保有量も国内最大であり、日本最大の金鉱山である菱刈鉱山を保有していることが特徴です。
また、南米の銅鉱山や東南アジアのニッケル鉱山など、世界中に鉱山権益を保有していることから、特に資源開発に力を入れてきたことがうかがえます。

平均年収と役員報酬
平均年収 | 平均年齢 | |
2018年度 | 820万円 | 43.9歳 |
40前半の平均年収が400万円後半なので、かなり高めの水準と言えるでしょう。

取締役は6人で総額が2億9,800万円なので、単純に割ると1人当たり4,967万円です。
そのうち1億円を超える報酬を受け取っている人は誰もいません。
事業内容
事業部門としては、資源事業本部、金属事業本部、電池材料事業本部、機能性材料事業本部の4つの事業本部を抱えていますが、報告書上は上記の3つに統合しています。

資源、製錬と上流部門で大半の利益を稼いでいる一方で、材料という下流部門も保有しており、垂直統合型の事業が行えることが特徴的です。
銅の価格下落でダメージ
2019年度の業績は2018年度に引き続き減収減益と振るわない結果です。

利益全体のうち、大きな割合を占める資源セグメントにおいて近年減益傾向であることが響いているようです。
住友金属鉱山では主に銅・ニッケル・金を鉱山権益として保有しています。つまり、これらの金属の価格に業績が大きく左右されるのです。

実際に、2018年度における最大の減益理由は銅(Cu)の価格下落なのです。

1年間の銅の下落率7.6%に対し、金は13.6%の大幅上昇であったのにも関わらず、相場の悪影響を大きく受けたことから、住友金属鉱山は銅の資産が多く、銅の価格に敏感な会社であることがわかります。
銅を含む工業用金属は米中貿易摩擦が表面化した2018年をピークに下落傾向にあり、銅に主軸をおいている住友金属鉱山にとってはあまりよくない状況です。

銅の長期チャートも以下に掲載します。中国の台頭により下値を切り上げて20年間上昇してきましたが、今後の銅価格の動きが住友金属鉱山の命運を握っていると言っても過言ではありません。

- 銅の価格に非常に敏感な会社
- 銅を含む非鉄金属は2018年から下落傾向
電池材料の利益は全体のごく一部
住友金属鉱山と言えば、パナソニックや米テスラとの関係を連想する方も多いのではないでしょうか。

上図のように、住友金属鉱山はテスラのEVに搭載されている電池の正極材を供給しています。
住友金属鉱山がパナソニックに正極材用原料であるニッケル酸リチウムを納入し、パナソニックが電池を製造、テスラに供給するという流れです。

ニッケル酸リチウムの生産量は世界トップクラスの4,550トン/月にも達し、資源事業(上流)から材料事業(下流)まで抱える住友金属鉱山の強みがはっきりと活かされている有望事業です。

電池材料事業の売上も堅調に増加しており成長事業であることがわかります。2年間で2倍以上成長しているのは好印象です。

しかし、事業別の利益額を比較すると、材料事業は他2事業と比べ桁違いに小さいのです。2019年度実績で、材料事業の利益の占める割合は6.7%です。
つまり、将来性の非常にある事業ですが、現時点でパナソニックやテスラが利益に与える影響は非常に軽微なのです。
- ニッケル酸リチウムの生産力は世界トップクラス
- 2年で売上2倍の成長事業
- 利益額は他事業と比較して桁違いに小さい
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