コロナ禍に各社苦しむ中、営業収益過去最高を叩き出したNTT。通信事業へはむしろ追い風と言われているのを体現しています。
そんな通信業界の中でも「日本電信電話」の本決算が5月15日に開示されました。
今回は日本電信電話(NTT)の決算資料を読み解きながら企業研究していきます。

コロナの影響はなさそうな業界だけど、2019年度が営業収益過去最高ってホント?

インターネットって普及しきったイメージがあるけど、契約数って増えてるのかな?格安も出てきたしちょっと心配…

元々国営の老舗企業だから保守的なんだろうか?これからの時代に生き残れるのかな?
企業プロフィール
沿革
- 1985日本電信電話公社の民営化に伴い日本電信電話株式会社設立
- 1987政府保有株式の一部を売却
- 1988NTTデータ設立
- 1992NTTドコモ設立
- 1999NTT東日本、NTT西日本、NTTコミュニケーションズ設立
日本電信電話(NTT)は1985年4月に日本電信電話株式会社法により日本電信電話公社の民営化に伴い誕生しました。
現在上場している日本電信電話(NTT)は、NTTグループ会社(NTTドコモ、NTT東日本、NTT西日本、NTT ltd.、NTTコミュニケーションズ、NTTデータなど)を傘下に抱える持株会社です。
2018年度末時点でも株式の35%以上は財務大臣が保有しており、NTTからの配当は国に還元される体制となっています。

規模
NTTグループは30万人以上の社員を抱える日本最大級のコングロマリットです(2020年5月現在)。
また主力事業の携帯電話の契約数では国内の44%がNTTドコモとの契約となっており、国内堂々の第一位を誇ります。

携帯キャリアとして同業に挙げられる、KDDIやソフトバンクと時価総額を比較すると、ソフトバンクGに次ぐ2番目となります(2020年5月現在)。
平均年収と役員報酬
平均年収 | 平均年齢 | |
2018年度 | 911万円 | 41.3歳 |
2019年度 | 922万円 | 41.1歳 |
40前半の平均年収が400万円後半なので、かなり高めの水準と言えるでしょう。

取締役は11人で総額が5億4,500万円なので、単純に割ると1人当たり4,955万円です。
そのうち1億円を超える報酬を受け取っている人はいません。
事業内容
その他の事業には、不動産事業、金融事業、電力事業、システム開発事業が含まれます。
またあまり知られていませんが、NTTはこれまで電力会社が担ってきた配電事業(電柱に架かる電線を通して家庭や商店に電気を送る)への参入を表明しています。
さらに30年度までに約1兆円を投入し、現在保有する30万kWの再エネ発電容量を750万kW(国内再エネ発電容量の約1割)まで拡大することも発表しており、今後電力事業がその他の事業から外れるかもしれません。

利益の大部分は移動通信事業に分類される、一般的にドコモとして知られる事業になります。携帯やスマホが一般に普及したことで、設立当時はベンチャー部門であったNTTドコモが一大事業に成長したのです。
インフラ界トップ級に安定な収益体質
新型コロナウイルスの影響が想像しにくい通信業界。実際に2019年度の連結決算を見ても、営業収益が過去最高を記録する好調ぶりです。

悪影響どころか、在宅勤務や遠隔教育、遠隔医療等においてNTTの強みを生かすことができる時代が到来したと言えるでしょう。
そんな力強い安定性が表れているのが営業キャッシュフローの推移です。

2006年度から2019年度まで営業キャッシュフロー(赤色)が一度もマイナスに振れたことはなく、2兆円台を常にキープしていることがわかります。
つまり、毎年2兆円超のお金が入ってきていることになります。これほど安定した営業キャッシュフローの企業は非常に珍しいと言えるでしょう。
この安定性は誰もが利用する”インフラ”を提供する会社であることもありますが、電力・ガス業界であれば莫大な燃料費に左右され、鉄道・航空業界であれば景気に左右されるため、これほどの安定性はありません。
一方で、NTTの通信事業は資源・エネルギー価格に大きく左右されることがなく、景気に限らず利用され続けるため、常に潤沢なキャッシュインが見込めるのです。
電力業界や航空業界については関西電力や日本航空を例に解説しているので、ご参考にしてください。
- 2019年度は営業収益過去最大
- 10年間以上、営業キャッシュフローが2兆円台を維持
- 通信インフラは資源や景気に左右されにくい
伸びる契約数と伸び悩む収益
毎年安定したキャッシュインがあり堅調なNTTですが、スマホやインターネットの普及は頭打ちになり増加していないイメージの方も多いと思います。
次は、契約数の増加について見ていきます。まずは移動通信事業に分けれらる、一般的な認知度が最も高いドコモの事業です。

契約数の欄を見ると、携帯電話サービスの増減率はプラスとなっています。しかし、営業収益を見ると△3.9%となっているのです。
契約数が増加しているのに、利益段階ではなく収益段階から減少しているというのは単価が下がっていることが考えられます。
格安SIMの登場で価格競争せざるを得ない状況にあり、収益の低下が契約数の増加に追い付いていないために、このような数字になっているです。
続いて地域通信事業に分けられ、いわゆる固定回線のフレッツ光やひかり電話として知られるNTT東日本・NTT西日本の事業です。

こちらも契約数の欄を見ると、フレッツ光・ひかり電話ともに増加していますが、収益を見ると△2.3%となっているのです。
これもソフトバンクAirやWIMAXなどの他社が提供するインターネットサービスとの競争により、収益性を落とさざるを得ない競争の結果であると考えられます。
契約数が増加している現在は不安要素とまでは言えませんが、減少フェーズに入ると収益性が一気に悪化する可能性があるので、注視していきたい指標です。
- 契約数はおおむね増加傾向
- 単価減少により売上・利益は減少傾向
積極的な海外展開
非常に安定なスマホやインターネット事業を抱えるNTTですが、その安定性を活かして海外展開や次世代研究にも注力しています。
海外展開に関しては2019年度でも海外売上高195億ドル(約2.1兆円)と、全体の売上高11.9兆円に対し20%近くを占めています。

また2019年9月には、米MLBとテクノロジーパートナーシップ契約を締結しました。このような提携からも、NTTブランドを強化し、世界的な企業になるという意思が感じられます。

さらに2019年7月には、NTT Research, Inc.を米国シリコンバレーに開設しています。ヘルスケアやブロックチェーン等の分野で、海外の大学や研究機関等と最先端の共同研究を実施しているのです。
2020年6月には、国際熱核融合実験炉(ITER)における通信ネットワーク技術協力も表明しており、国際社会におけるNTTの信頼度の高さがうかがえます。

近年低迷していた設備投資額も2019年度はその他事業への増加を主因に、5年ぶりの水準に回復しており、今後も堅調な収益を活かした積極的投資が期待できそうです。
さらに2020年4月にはグループ全体で最大3兆円もの資産を現金化し、成長投資に活用することも表明しています。
NTTグループでトップクラスの規模を誇るNTTデータも、IBMやアクセンチュアをライバルに設定するほど海外事業展開に積極的です。
- 海外売上高は全体の20%を占める
- 2019年には最先端研究所をシリコンバレーに設立
- 設備投資額は増加に反転
コメント