【日本製鉄】強みは圧倒的な規模?/赤字続きの鹿島・名古屋に遂にメスが!

企業分析

資源価格に大きく左右される鉄鋼業界。斜陽と言われて久しい重厚長大産業に属する「日本製鉄」の本決算が5月8日に開示されました。

今回は日本製鉄の決算資料を読み解きながら企業研究していきます。


鉄鋼業界ってリーマンショックの時にかなりやられてたよね。あれから復活できたのかな?

最近、工場やラインの休止の話題も出てきてるけどコロナが収束すれば動き出すのかな?

テレビも新聞もデカデカと取り上げてたけど、結局2019年度の大赤字は何が原因だったんだ?

企業プロフィール

沿革

歴史
  • 1934
    日本製鐵株式會社設立
  • 1950
    財閥解体により八幡製鐵株式會社設立
  • 1970
    八幡製鐵と富士製鐵が合併し、新日本製鐵株式会社設立

  • 2011
    新日本製鐵が住友金属工業を吸収合併し、新日鐵住金株式会社設立
  • 2019
    新日鐵住金から日本製鉄に社名変更

日本製鉄は2019年4月1日に新日鐵住金(シンニッテツスミキン)から商号変更し誕生した比較的新しい名前のため、日本製鉄という名前を聞きなれない方もいるかもしれません。

歴史を見ていただくとわかるように、1934年に設立された日本製鐵が多くの再編を繰り返した後、再び日本製鉄として生まれ変わったのです

厳しい現状に打ち勝つために、栄光の時代の名前を冠することで、再び復活しようという意思が感じられます。

また、現在の商号からもわかりますが、役員が旧日本製鉄出身者が大半を占めている(2020年5月現在)ことから、旧新日本製鉄に主導権があるだろうと想像できますね。

規模

事業規模は国内最大で、2位のJFEに対し売上ベースで1.5倍、時価総額ベースで2倍以上の差をつけています(2020年5月現在)。

また、製造業で栄えた日本を象徴するように粗鋼生産量においても日本製鉄は世界3位と大健闘しています。

ただし、世界1位のアルセロールミッタルや2位の中国宝武鋼鉄集団に粗鋼生産量において2倍近い差を付けられている現状です。

世界の粗鋼の半分は中国で生産されており、日本の鉄鋼会社が合併を繰り返し誕生した日の丸連合とも言える日本製鉄の世界におけるポジショニングがかなり厳しい状況がうかがえます。

平均年収と役員報酬

平均年収平均年齢
2018年度613万円37.2歳
2019年度613万円37.2歳

30代後半の平均年収が400万円前半なので、比較的高めの水準と言えるでしょう。

取締役15人の総額が9億1,100万円なので、単純に割ると1人当たり6,073万円です(2019年度)。

2018年度は1億円を超えるのが前会長と現会長2人でそれぞれ1億4,721万円でしたが、2019年度は現会長と現社長でそれぞれ1億5,129万円です。

事業内容

日本製鉄の抱える4つの事業
  • 製鉄事業
  • エンジニアリング事業
  • ケミカル・マテリアル事業
  • システムソリューション事業

ケミカル・マテリアル事業の存在は少し意外かもしれませんが、酸化鉄を炭素で還元する技術を持つ会社という意味では、金属や炭素化合物に関連するマテリアル事業があるのも不思議ではないと思います。

鋼材生産の流れは以下の通りです。鉄鉱石から銑鉄を得る過程で高炉が用いられます。

鉄鉱石+石炭など → 銑鉄(炭素が多く脆い) → 粗鋼 → 鋼材

売上高や利益は製鉄事業で8割以上を稼ぎ出しており、日本製鉄の利益は製鉄事業により大きく左右されると言えます。

リーマンショックに逆戻りの可能性も

リーマンショック時期を含む生産出荷水準の推移は以下のようになっています。

2014年頃をピークに生産量は右肩下がりなことが見て取れます。

この状況下において、新型コロナウイルスによる需要減が重なることで、2020年1Qにはリーマンショックを下回る予想がされています。

粗鋼生産量は鉄鋼業界に属する企業にとって非常に重要な指標です。

一般的に莫大な固定費のかかる鉄鋼業界では、一定数以上の生産量が確保できないと赤字を垂れ流すことになるからです。

また、中国でインフラ投資が活況なことから原料コストが下がらない一方、世界経済減速による鋼材需要低迷で市況が悪化するという最悪な状況にあるため、利益が非常に出にくくなっています。

このような状況下では、供給過多な中国の鋼材に負けないようにグループ全体で如何に高付加価値な素材としての”鉄”を販売できるのかが、今後の鍵を握っています。

まとめ
  • 2020年度には生産出荷量がリーマンショックを下回る可能性あり
  • 中国の鋼材大量生産により日本産の鋼材が売れない
  • 今後は高付加価値な製品の創発も重要

設備やライン休止はコロナによる一過性のものではない

ここ数か月の間に、日本製鉄のライン休止に関するニュースが多数出ています。

コロナウイルスによって突然始まったように感じますが、ここまでに記載したように鋼材の需要減少と生産減少は今に始まった話ではないのです。

構造的に儲かりにくい事業である鋼材製造の縮小は長期に亘り計画されています。

日本製鉄が守りの体制に入っているのがわかるかと思います。

まとめ
  • 設備やラインの休止は今後も長期に亘り計画済み
  • 不採算の設備を停止することで固定費を削減

大赤字はコロナとあまり関係がない

2019年度決算の4,000億円超の赤字は非常にインパクトがあり、このニュースで日本製鉄が危機に瀕していることを知った方も多いでしょう。

しかし、ここまで読まれた方はわかると思いますが、今に始まったことではないのです。ではなぜ、今回の決算がここまで悪かったのかを説明します。

実際に、2018年度と2019年度のキャッシュフロー計算書(お金の動き)を比較するとよくわかります。

営業活動によるキャッシュフロー(日本製鉄の抱える4つの事業からのキャッシュイン)はほとんど変化がない一方で、2019年度には減損損失の項目に3,000億円超の数字が登場しています。

これが2019年度決算大赤字の決定的な要因です。次に、この莫大な減損損失の中身を見てみます。

左下の製鉄所固定資産減損損失の項目に、鹿島・名古屋・広畑・呉に関する数百~数千億円規模の数字が並んでいます。

これは日本製鉄が各製鉄所において今後も利益が出る見込みは薄く、利益を出さない設備(=価値の低い設備)であると認めたことを意味します。

そして現在の価値に合わせるために帳簿上の価値を一気に引き下げたのです。

特に呉に関しては高炉2基を含む全設備の休止を見込んでおり、呉製鉄所にある固定資産全額分の減損となっています。

これまでも鹿島や名古屋、広畑製鉄所は赤字続きだったため、減損を行う(日本製鉄が設備価値の低さを認める)タイミングを見計らっていたのでしょう。

減損を行うことで、帳簿上に正しい資産額を掲載することができ、さらに毎期の見かけ上の損失となる減価償却費の低減を図ることができます。

今回の大赤字は、コロナによる影響が本格化する来期以降の大赤字の布石な気がしてなりません…今、鉄鋼業界に投資するのはかなり厳しい印象ですね。

日本製鉄に次ぐ、業界2位のJFEの厳しい現状もご覧ください。

まとめ
  • 2019年度の大赤字は減損損失が原因
  • 赤字続きの設備を止めることで費用を削減

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