【三菱ケミカル】強みは独自製法のMMA?/新薬販売で景気や市況に強い体質へ!

企業分析

化学業界の中でも、一般の顧客向け商品をあまり扱わないためにイメージが付きにくい三菱ケミカルHD。近年は田辺三菱製薬を完全子会社化し、製薬にも注力しています。

そんな「三菱ケミカルHD」の本決算が5月13日に開示されました。

今回は三菱ケミカルの決算資料を読み解きながら企業研究していきます。


三菱ケミカルって何を作ってるの?やっぱり化学業界だと石油化学製品を扱ってるのかな?

完全子会社化した田辺三菱製薬は今後どうなりそう?

企業プロフィール

沿革

歴史
  • 1934
    三菱鉱業と旭硝子の出資により日本タール工業設立
  • 1936
    日本化成工業に商号変更
  • 1944
    旭硝子を合併し三菱化成工業設立
  • 1950
    日本化成工業、新光レイヨン、旭硝子3社に分割
  • 1952
    日本化成工業が三菱化成工業に再商号変更
  • 1994
    三菱化成を存続会社として三菱油化を合併し、三菱化学設立
  • 2005
    三菱化学と三菱ウェルファーマが共同で三菱ケミカルHD設立

三菱ケミカルの起源である三菱化成工業から分割された硝子部門は、現在でも存続するAGCであり、三菱ケミカルとは兄弟と呼べる関係です。

規模

三菱ケミカルHDは、化学業界の中で売上高において業界トップに君臨しています(2020年6月現在)。

三菱ケミカルHD住友化学旭化成
売上高3.6兆円2.2兆円2.2兆円
時価総額9,500億円6,000億円1.3兆円

平均年収と役員報酬

平均年収平均年齢
2018年度1,738万円47.4歳

40後半の平均年収が400万円後半なので、相当高めの水準と言えるでしょう。ただしHDなので高めに出る傾向があります。

取締役は6人で総額が2億7,500万円なので、単純に割ると1人当たり4,583万円です。

そのうち1億円を超えるのは現社長の1人で1億4,000万円です

事業内容

三菱ケミカルHDの抱える5つの事業
  • 機能商品事業
  • ケミカルズ事業
  • 産業ガス事業
  • ヘルスケア事業
  • その他の事業

その他の事業には、エンジニアリング、運送及び倉庫業が含まれます。

売上高を見ると主要事業は機能商品事業とケミカルズ事業ですが、付加価値の高い機能商品事業により利益基盤が支えられていることがわかります。

田辺三菱製薬も含まれるヘルスケア事業はまだ成長段階にあり、売上・利益ともに割合は非常に小さいのが現状です。

主力のMMA事業が市況と景気悪化で減益

2019年度の連結決算は売上収益が7%減である一方、営業利益は△51%となっています。

営業利益を圧迫した最も大きな原因はセグメント別の利益増減要因を見ると、ケミカルズ事業ヘルスケア事業にあることがわかります。

まずケミカルズ事業に注目すると、売買差の大幅悪化、すなわち商品単位当たりの利益縮小が営業利益に響いたことが示されています。

ここでケミカルズ事業に含まれる製品を細かく見ると、MMA(メタクリル酸メチル)、石化、炭素の3つがあるとわかります。

MMAは聞きなれない方も多いかと思いますが、水族館の水槽に使われる透明度の非常に高いアクリル樹脂の原料であり、石油化学製品の一部です。

つまり本来”石化”に含めてもいいはずですが、単独で記載するほど三菱ケミカルが特別に注力する原料なのです。

実際に三菱ケミカルは、MMA、MMA由来のアクリル樹脂(PMMA)、MMAの原料となるアクリロニトリル(AN)を一貫して超低コストで生産する体制を確立しています。

これにより、2018年度においてMMA事業の営業利益率は約24%を誇り、世界トップである約40%のシェアを誇っているのです。

2019年度はこの三菱ケミカルにとって最強の武器”MMA事業”において、原料価格とMMA価格の差が縮小したことが営業利益に大きなダメージを与えたのです。

ちなみにアクリロニトリルを強みとする旭化成も原料価格と製品価格の差が縮小したことで、利益を大幅に減らしています。

このように、化学事業を営む多くの企業は価格変動の激しい石油価格(原料価格)により、利益を一時的に大きく棄損することがあるのです。

まとめ
  • 主力のMMA事業で利益率が低下
  • 石油価格と石油化学製品価格は変動しやすく利益の増減が激しい

ジレニア係争によるヘルスケア事業の棄損

ケミカルズ事業と共に、減益の大きな理由となったヘルスケア事業の中身を見ていきます。

営業利益の減少理由に挙げられている、”ジレニアロイヤリティ収入の否認”がヘルスケア事業における減益の最も大きな原因です。

「ジレニア」とは多発性硬化症治療剤であり、三菱ケミカルHDの完全子会社である田辺三菱製薬は、この薬の国外における開発権と販売権をノバルティスに供与していました。

その代わりに、海外での売上の一部をロイヤリティ収入として田辺三菱製薬が受け取る契約をしていたのです。

一見非効率にも感じますが、海外に販売拠点がなくともグローバル展開が可能になり、全世界から収益が手に入る方法なのです。

しかし、このロイヤリティの一部支払いを、ノバルティス側が拒否し、田辺三菱製薬側は想定していた利益を一気に失うこととなったのです。

この影響はもちろん、2020年3月に田辺三菱製薬を完全子会社化した三菱ケミカルHDの利益に400億円を超す損失として表れました。

係争中で先行き不透明な田辺三菱製薬ですが、2020年度から2023年度にかけて、多くの新薬を発売する計画をしています。

これまで頼ってきたジレニアのロイヤリティ収入が途絶えた場合にも、三菱傘下入りで付けた資金力を元に新薬を上市させ、収益に貢献する変革が求められています。

新薬候補数としては他社と比較しても多いので、製品化までたどり着く数によっては、ヘルスケア事業の基盤強化に繋がるかもしれません。

まとめ
  • 田辺三菱製薬のジレニア係争がヘルスケア事業に影響
  • 2020年度から2023年度にかけて新薬の多くの上市計画あり

コメント

タイトルとURLをコピーしました