2000年前半に世間をたびたび騒がせた雪印。今では合併の末に雪印メグミルクに変わったことを知らない人も多いのではないでしょうか。
そんな「雪印メグミルク」の本決算が5月13日に開示されました。
今回は雪印メグミルクの決算資料を読み解きながら企業研究していきます。

消費者がお金を使わないって言われてるけど食料品には影響ないのかな?

最近ヨーグルトブーム来てない?雪印メグミルクも儲かってるのかな?
企業プロフィール
沿革
- 1925有限責任 北海道製酪販売組合設立
野津幌仮工場でバター製造・販売開始
- 1926保証責任 北海道製酪販売組合連合会に改名
- 1941北海道興農公社に社名変更
- 1947北海道酪農協同株式会社に社名変更
- 1950雪印乳業と北海道バター(後のクロバー乳業)に分割
- 2000雪印集団食中毒事件発生
- 2002雪印食品牛肉偽装事件発生
- 2003雪印乳業から牛乳・発酵乳・飲料部門を分離し日本ミルクコミュニティ設立
- 2009日本ミルクコミュニティと雪印乳業が経営統合し、雪印メグミルク設立
- 2011雪印メグミルクが日本ミルクコミュニティと雪印乳業を吸収合併
雪印メグミルクの大元は関東大震災後の乳製品輸入関税撤廃により窮地に立たされえた北海道の酪農民が結集し、組成された北海道製酪販売です。
2000年と2002年には不祥事が立て続けに発覚し、子会社の雪印食品は廃業に追い込まれ、最終的には各部門の分社化を余儀なくされました。
規模
国内3大乳製品メーカーである明治乳業を抱える明治HDや森永乳業と時価総額や売上高を比較すると以下のようになります(2020年6月現在)。
明治HD | 森永乳業 | 雪印メグミルク | |
時価総額 | 1.3兆円 | 2,300億円 | 1,800億円 |
売上高 | 1.3兆円 | 5,900億円 | 6,100億円 |
時価総額や売上において明治HDが数字的にはずば抜けています。ただし明治HDは明治製菓のような乳製品以外の事業を抱えています。
そこで明治HDのうち乳業部門のみを考えると売上高は約5,000億円となり、国内3大乳業メーカーとしては雪印メグミルクを筆頭としつつもほぼ横並びであることがわかります。
平均年収と役員報酬
平均年収 | 平均年齢 | |
2018年度 | 709万円 | 40.0歳 |
2019年度 | 713万円 | 40.0歳 |
40代前半の平均年収が400万円後半なので、比較的高めの水準と言えるでしょう。

取締役は8人で総額が2億3,000万円なので、単純に割ると1人当たり2,875万円です。
そのうち1億円を超える報酬を受け取っている人はいません。
事業内容
その他の事業には、共同配送センター事業および不動産賃貸事業等が含まれます。

乳製品と飲料・デザート事業の売上高がほぼ等しく、その二つの事業で全体の売上高をほとんど占めています。
しかし、利益を見ると乳製品事業に対して飲料・デザート事業は半分ほどしかなく、飲料・デザート事業の利益率がかなり低いことがわかります。
値上げにより飲料・デザート事業の利益向上
雪印メグミルクの2019年度決算は増収増益と好調な様子を見せています。

増益の内容を見てみると、少し面白いことがわかります。
最も大きな増益要因は赤枠の「販売単価差」です。これが特に「飲料・デザート」において大幅に利益を生み出しています。

販売単価差とは販売単価から仕入単価を引いて値のことを指すため、「販売単価差」で増益したことは”販売単価が上がった”もしくは”仕入単価が下がった”ことを意味することになります。
ただし今回は原材料コスト(≒仕入単価)の増加で21億円減益したと記載が見られるため、前者の”販売単価が上がった”、つまり値上げをしたことがわかります。
実際に国内における乳価は上昇を続けており、原材料価格高騰が進んでいます。これにより乳業メーカー各社は牛乳やプリン、ヨーグルト等を値上げせざるを得ない状況が続いています。
その背景としては、酪農家の減少による生乳生産量の減少が挙げられます。つまり構造的に値上げが続いてしまう状況なのです。

ただし現状では値上げをしても、増益に繋がっており大幅な顧客離れは起きていないことがわかります。
今後どこかで価格均衡が崩れ、顧客の離れる価格が存在するはずなので、物流や生産の効率化や高付加価値商品の開発が重要となっていくでしょう。
- 国内乳価が年々上昇しているため原材料コストが年々上昇
- 顧客は多少値上がりしても購入を継続
チーズとヨーグルト事業の拡大に注力
事業背景として乳価の継続的な上昇というマイナス影響がある雪印メグミルクは、今後利益を伸ばすためにチーズとヨーグルトの拡大に注力しています。
1つ目のチーズは人口減少で縮小する国内においても需要が堅調に増加しており、非常に将来性のある市場です。

また雪印メグミルクはこの将来性のあるチーズ事業を世界でも拡大しています。
2017年9月にはオーストラリアの食品会社である「アダーデライツG」のチーズ事業を約12億円で買収しました。
このような戦略的拡大によりオーストラリアとインドネシアにおける販売量は約6倍にまで増加しています。

2つ目のヨーグルトは国内市場が縮小する一方で販売を拡大しており、雪印メグミルクが他社シェアを奪いながら強さを見せつけている事業です。

昨今の健康ブームにより高利益率な機能性ヨーグルト市場における競争激化の中で、雪印メグミルクの「ガセリ菌SP株」は明治乳業の「R-1」や「LG21」のシェアを削っているのです。

ただし事業内容の章で述べたように、ヨーグルトを含む飲料・デザート事業の利益率はかなり低いのが現状です。
これは縮小するヨーグルト市場の中で明治乳業や森永乳業が熾烈な販売合戦をすることにより販管費が嵩み、利益が出しにくい状況に陥っていることが主因となっています。
ヨーグルト事業の拡大のためには他社にない差別化が求められています。
- 世界で需要拡大するチーズ事業を国内外で注力
- 国内ヨーグルト市場は縮小している一方で他社シェアを獲得
- 価格競争による利益率の低下を是正することが目標
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