2020年に発送電分離が行われたことは耳にした方も多いかもしれません。変化の真っただ中にいる「九州電力」の本決算が4月30日に開示されました。
今回は九州電力の決算資料を読み解きながら企業研究していきます。

九州電力って出力抑制の話題でよく出てくるよね。なんか再エネ普及の邪魔をしてるイメージあるけどなんでなのかな?

結局、電力自由化で大手電力から新電力への乗り換えって進んでるの?

2019年度の最終利益は赤字か…安定なはずの電力会社がなんで赤字になるんだ?
企業プロフィール
沿革
大手電力会社のうち九州エリアを管轄する九州電力。最近では電力自由化で関東圏にも進出し、九州エリア以外でも広告等を目にすることが増えたかもしれません。
自由化等のビッグイベントの多い業界ですが、関東圏や関西圏では電力会社の人気は低下傾向にあります。斜陽と言われて久しいこともあるでしょう。
出典:日本総研
実際に国内電力消費はリーマンショックをピークに減少しており、今後もピーク時の消費量に戻ることはないとも囁かれています。
九州でも電力会社の影響力は弱まっており、これまで九州経済連合会の会長は九州電力の会長が就任することが習わしでしたが、現在では7代続いた慣習が途絶えているのは象徴的です。
規模
電力会社の規模を見るための指標として販売電力量を比べてみます。販売電力量とは、発電または購入した電力のうち、自社使用分や送電ロスを差し引いたものになります。
九州電力の販売電力量が約800億kWhであるのに対し、関西電力は約1,200億kWh、中国電力は約500億kWhとイメージ通りの規模感であると思います。
しかし、時価総額ベース見ると、大手電力会社の中で6番目(中国電力は4番目)と株主からの評価はあまり高くないことがうかがえます(2020年5月現在)。
また、九州電力は東北電力や四国電力に並び、他エリアに多量の電力を供給する(大幅に供給過多)電力会社でもあります。

つまり、九州エリアだけでなく、一大供給先である関西・中国・四国エリアの経済状況にも大きく影響されることがわかります。
世界の粗鋼の半分は中国で生産されており、日本の鉄鋼会社が合併を繰り返し誕生した日の丸連合とも言える日本製鉄の世界におけるポジショニングがかなり厳しい状況がうかがえます。
平均年収と役員報酬
平均年収 | 平均年齢 | |
2018年度 | 777万円 | 43.2歳 |
2019年度 | 776万円 | 43.4歳 |
40前半の平均年収が400万円後半なので、比較的高めの水準と言えるでしょう。

取締役13人の総額が株式報酬等を含めて4億9,000万円分なので、単純に割ると1人当たり3,769万円です(2019年度)。
そのうち1億円を超える報酬を受け取っている人は誰もいません。
事業内容
その他エネルギーサービス事業にはガス販売や海外事業が含まれており、その他の事業には不動産や有料老人ホーム事業が含まれているようです。

セグメント別の売上高をみると国内電気事業が全体の約90%を占めていますが、売上高利益率は2.3%と非常に低いことがわかります。
そのため、営業利益ベースではICTサービス事業や不動産事業等の利益率の高い事業が30%ほどを占めており、無視できないボリュームになってきています。
九州エリアは太陽光と地熱の聖地
九州電力=出力抑制というイメージがつくほど、一緒に語られることが多いですが、この一因は九州のエリア特性にあるのです。
九州エリアの特徴には、2つ重要なポイントがあります。
まず、一つ目のポイントが太陽光発電設備の多さです。
以下に各エリアごとの電源構成(2017年度)を示しました。

九州エリア(右から2番目)において、太陽光(黄色)の多さが目立っています。
九州地方は日照時間が長く、太陽光発電事業者にとっては格好の場所となるため、大量の太陽光発電設備が設置されてきました。
それにより、太陽光発電のピーク時間である昼に電力余りが発生し、太陽光発電を止めざるを得ない状況になってしまうのです。これが、九州電力で出力抑制が多い理由です。
ただし、九州エリア外に売るなどの対策を強化すべきとの意見もあり、今後は改善されていくでしょう。
続いて、二つ目のポイントが地熱発電設備の多さです。
国内の全地熱発電の約4割を九州電力が保有しており、日本最大規模の八丁原発電所の保有者も九州電力なのです。
現在は国内の全地熱発電所を合わせても、約50万kWと非常に規模が小さいですが、国は2030年度までに150万kWまで発電量を増やすことを目標としており、今後が期待される電源です。
この九州電力の強みとも言える、地熱発電技術を活かさない手はなく、2020年6月には地熱発電技術を保有する米サーモケム社の買収が発表されました。
この買収は九州電力グループにとって初の独自外資買収案件ということもあり、本気度がうかがえます。

この買収により全世界に地熱発電設備を持つことで海外の発電容量を増やし、国内の地熱開発にも技術を還元していくと考えられます。
- 九州エリアは他のエリアより太陽光発電設備が多い
- 昼の時間帯には太陽光発電の電力が余ってしまう
- 地熱発電設備の多さも特徴であり強みとなる可能性も
自由化による乗り換えペースは緩やか
2018年度と2019年度の販売電力量の増減を見てみましょう。九州電力グループ合計の総販売電力量は0.1%増と数値としては減少するどころか増加しています。

九州電力単体では2.7%減となっています(電力需要自体の減少も含む)が、グループ全体ではプラスとなっているように、電力会社全体の傾向としてグループ全体では緩やかな減少に留まっているところが多いです。

九州における新電力のシェアを見ても、2016年から約4年間かけても大手電力から離脱した割合は約1割です。
つまり、大手電力グループ全体で見た場合、この離脱率は更に下がることになります。
ただし、乗り換えが急激に進んでいないとは言え、価格競争や設備劣化更新等で大手電力会社が厳しい状況には変わり有りません。
- 新電力への乗り換えは約10%の低水準
- 電力会社グループ全体で見ると乗り換えは決して多くない
”繰延税金資産の取り崩し”から分かる来期の怖い業績
2019年度の最終赤字の大きな原因は会計上の処理にあります。
経常利益ベースで見ると、2018年度に比べ23.8%減とは言え、数百億円の利益が出ていることからも、”通常の赤字”とは異なることがわかると思います。

それでは、なぜ純利益が赤字なのかと言うと、スライドにも記載がある「繰延税金資産の取り崩しによる法人税増加」が最大の原因です。
法人税額増加と書いてあるので、法人税等の項目を見ると、2019年度は経常利益が減少しているにも関わらず法人税額が95.2%も増加しています。
利益と税額は比例の関係にあるはずなので、これはおかしい。
このような不思議な現象は、税効果会計という財務と税務でルールが異なることが原因で発生します。つまり、会計上の問題で本業の利益とは直接的には無関係なのです。
しかし、無関係だからと気にしなくてもよいわけではなく、この取り崩しを行うこと自体が将来的な利益が今までの予想を大きく下回る宣言と同じなのが2019年度決算で最も重要な点です。
ここで2015年度~2019年度分の売上と利益のグラフを見てみます。

売上は右肩上がりなのに対し、営業利益や純利益は急激に減少しています。燃料費が嵩む一方で、他社との激しい競争にさらされることで、利益が出にくい状況が継続しているのです。
そして追い打ちをかけるように、川内原子力発電所1号機が2020年3月に、2号機が2020年5月にそれぞれ停止しました。
これは原発の新しい安全基準を満たす工事が間に合わなかったことが原因で、工事の遅れで停止が決定したのは九州電力のみです。
もちろん原発が止まれば火力で補うために燃料費が嵩むことは確実であり、営業利益ベースで250億円ものマイナス要因になると予想されています。
このように今後もV字回復する見込みがないという宣言が「繰延税金資産の取り崩し」に現れており、電気代の値上げ等で体質を変える必要があるでしょう。
- 最終赤字の原因は会計上の処理
- 原発の停止により更なる収益悪化は確実
- 利益を出すためには電気代の値上げも検討が必要
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