【JR東日本】特徴は積極的な投資?/倒産しない?コロナで利益への影響は?

企業分析

コロナでダメージを受ける業界には、移動手段を提供する業界観光に関する業界が頻繁に挙げられますが、このどちらも抱えるのが鉄道事業者です。

そんな鉄道業界の中でも「JR東日本(東日本旅客鉄道)」の本決算が4月28日に開示されました。

今回は東日本旅客鉄道の決算資料を読み解きながら企業研究していきます。


コロナの影響で新幹線がガラガラみたいだね…さすがに影響が大きそうだけど利益はどうなのかな?

鉄道業界も保守的なイメージがあるけど、外出する人が減って本業の利益が減っても大丈夫なのかな?

JR東日本も倒産するんじゃないかって言う人がいたけど大丈夫だろうか?

企業プロフィール

沿革

東日本旅客鉄道は1987年4月に国鉄民営化に伴い誕生しました。

2002年には日本鉄道建設公団が所有する株式を売却したことで、完全民営化を達成しています。

また2001年に発行され、2004年から電子マネー機能が付与されたICカード「Suica」は発行枚数が増え続け、今や国民2人に1人が持つ普及率に達しています。

この凄まじい普及率を活用しない手はなく、2020年6月にはみずほ銀行の「Jコイン」や三菱UFJの「coin」等のデジタル通貨とSuicaを連携する検討の開始報道がなされています。

キャッシュレス決済の現状は、大規模還元を実施したPayPayの独壇場ですが、今後の勢力図更新にキャッシュレス決済の先駆け”Suica”が一役買うかもしれません。

規模

大都市圏の関東を含む甲信越から東北まで、広い範囲が営業地域であることもあり、営業キロや利益はJRグループ最大です(2020年5月現在)。

また日本は電車移動文化が根付いており、世界と比較すると国土が狭いために営業キロは短いですが、輸送人員を見ると圧倒的であることがわかります。

諸外国の方が日本の満員電車の異常さを頻繁に語ることもうなずけるかと思います。

これは鉄道会社の立場からすると、毎日大量の人が利用する鉄道事業は非常に安定的な収益源にすることができることを意味します。

平均年収と役員報酬

平均年収平均年齢
2018年度715万円39.4歳
2019年度719万円38.8歳

30後半の平均年収が400万円前半なので、比較的高めの水準と言えるでしょう。

取締役は12人で総額が5億1,600万円なので、単純に割ると1人当たり4,300万円です(2019年度)。

そのうち1億円を超える報酬を受け取っている人はいません。

事業内容

東日本旅客鉄道の抱える4つの事業
  • 運輸事業
  • 流通・サービス事業
  • 不動産・ホテル事業
  • その他事業

その他の事業には、クレジットカード事業や情報処理業が含まれます。

運輸事業が利益全体の約66%を生み出していますが、不動産・ホテル事業も約20%と比較的大きなウェイトを占めています。

どちらの事業も今回の新型コロナウイルスによる影響を受けやすい事業であるため、厳しい時期となることは不可避です。

また、多くの車両やホテル等の建屋を毎年減価償却しなければならないために、利益以上の多額な減価償却費が計上されているのが特徴的です。

乗客率低下で業績にダメージ

新型コロナウイルスにより国家間を結ぶ航空業界にダメージが出た後、県をまたぐ移動の自粛により鉄道業界へのダメージも顕在化し始めました。

2020年3月期の旅客輸送量(定期外)を見ると、前期比4.5%の減少を確認することができます。仮に輸送量減少の影響が3月に集中していたと考えると、3月は50%近い減少であったと予想されます。

この旅客輸送量の減少による利益への影響は以下の通りです。

2019年3月期から運輸収入は639億円減少しており、このうち99%に当たる635億円が新型コロナウイルスによる影響と記載されています。

この635億円の収入減少はもちろん、455億円の営業費用の増加も営業利益に大きく影響しているので、営業費用の内訳を見ていきましょう。

物件費におけるその他の項目の増加率が大きく、次世代新幹線「ALFA-X」やJR東日本の独自ポイント「JRE POINT」に関する費用など、新事業への費用が嵩んだことがわかります。

また、航空業界と同様に、大きな減価償却費や人件費のような固定費を簡単に減らすことが難しいことも相まって、連結営業利益ベースで第4四半期は赤字、通期は前期比20%超の減少となってしまったのです。

航空業界については日本航空を例に営業費用削減の難しさを記載しているので、ご参考にしてください。

まとめ
  • 乗客率50%超減少で利益を多く棄損
  • 固定費の削減が困難

3年間で2倍に膨らむ成長投資が強み

先に新事業での費用が嵩んだことも2019年度決算の業績悪化の一因となったことを解説しましたが、JR東日本の先行投資への積極性が垣間見える資料が次になります。

2017年3月期の成長投資額が1,699億円であったのに対し、2020年3月期は3,452億円と3年間で倍近く伸びていることがわかります。

保守的と表現されがちなインフラ業界において、設備更新・維持のための設備投資ではなく、成長分野への投資がこれほど伸びているのは非常に特徴的であり、好印象です。

ただし、成長投資の増加で投資CF(緑)が大きくなるにつれて、手元現金(青)が少しずつ減少しています。

手元の現金確保を優先する必要が出てくるので、成長戦略を進めるJR東日本にとって新型コロナウイルスは、「このタイミングで来たか!」という思いでしょう。

まとめ
  • 3年間で成長投資が倍以上に伸びている

手元資金は少なめ

乗車率90%減のような報道がなされるため、収入がなくなり倒産するのではないかとの噂があります。その可能性を探るために財務状況を見ていきましょう。

まずは、短期間で返済する必要のある流動負債の項目です。

流動負債は2019年度末時点で約1兆5,500億円あります。特に未払金のウェイトが大きく、流動負債の項目が膨れ上がっています。次に、資産の保有量を見ていきます。

現金及び預金が約1,500億円と流動負債に対して1/10程度であることがわかります。

これは、鉄道事業は基本的に対個人の日銭商売(乗客が切符を買う際に支払いを行う)スタイルであり、手元に現金を抱えなくても列車を運行すれば毎日現金が入ってくることが一因です。

そのためこの状況で、仮に1年間現金が入ってこなければ大規模な借り入れを行わない限り、倒産してしまうでしょう。

しかし、2020年6月にも移動自粛が解除されることや、1年以内に返済する必要のある負債は多くないため、直近で倒産することはまずありえないと言えます。

まとめ
  • 1年間無収入となれば手元資金は底を尽きる
  • 数か月程度であれば借り入れなくとも問題なし

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