先日、日本製鉄を通して鉄鋼業界の厳しい現状の説明をしましたが、同じ業界で2位に位置する「JFEHD」の本決算が5月12日に開示されました。
今回はJFEHDの決算資料を読み解きながら企業研究していきます。

過去最大の赤字ってすごいインパクトだね…日本製鉄も大赤字だったけどJFEの赤字の原因はなんだろう?

鉄鋼業界が厳しいって聞くけど、今後はどうしていくのかな?

中国もコロナでダメージを受けたみたいだけど、中国の生産量は減ったのかな?
企業プロフィール
沿革
- 1912日本鋼管株式會社設立
- 1950川崎製鉄株式会社設立
- 2002日本鋼管と川崎製鉄が株式移転によりJFEHD設立
JFEHDの起源でもある、川崎製鉄は川崎重工業の製鉄部門から分離された企業であるため、JFEHDは川崎重工の遠い親戚とも言えます。

規模
事業規模は日本製鉄に次いで国内2位ですが、売上や時価総額で約2倍の差を付けられているのが現状です(2020年5月現在)。
粗鋼生産量においては、日本製鉄が年間約5,000万トンであるのに比べ、JFEHDでは約3,000万トンなので、おおよそ売上と比例していることがわかります。

ただしJFEの商社事業は、日鉄物産(日本製鉄の中核商社)と比較すると、売上こそ歯が立たないものの利益では勝っており、商社事業の好調さがうかがえます。
JFE商事 | 日鉄物産(鉄鋼部門) | 伊藤忠丸紅鉄鋼(総合商社鉄鋼部門) | |
売上高 | 1.1兆円 | 2.1兆円 | 2.4兆円 |
利益 | 270億円 | 220億円 | 223億円 |
平均年収と役員報酬
平均年収 | 平均年齢 | |
2018年度 | 1091万円 | 44.2歳 |
40前半の平均年収が400万円後半なので、かなり高めの水準と言えるでしょう。ただしこの数字はHDに所属する社員だけの平均なので高めに出てしまいます。

取締役5人の総額が2億9,783万円なので、単純に割ると1人当たり5,957万円です(2018年度)。
そのうち1億円を超えるのは前社長、現社長、現JFEエンジニアリング社長の3人です。
事業内容

セグメント別の売上収益をみると鉄鋼事業が約65%、商社事業が約25%、エンジニアリング事業が約10%となっています。
2018年度において利益ベースでは鉄鋼事業が74%を占めており、鉄鋼事業によって毎期の利益が出ていると言えます。
ただし、2019年度のように赤字の場合は他事業がバッファーの役目を果たしており、他の事業も必要不可欠です。
赤字の主な理由はやはり減損損失
過去最大の赤字と報道されれば、利益の減った事実のみが注目されがち(もちろん一番重要なので)ですが、この赤字の主な理由は減損損失です。

純利益が▲1,977億円のところ、東日本製鉄所千葉地区の減損損失だけで▲1,466億円もの損失を計上していることがわかります。
もちろんこれは損益計算書にも減損損失として表れています。

また、ここで注目したいのが売上収益の減少割合が3.7%であるのに対し、売上総利益(粗利)が27.4%も減少している事実です。
これほどまで大きな差が出てしまう背景には、資源価格の高止まりがあります。

販価・原料の欄にあるように、原料である鉄の価格が下がらないことが利益を圧迫しており、根本的に鉄鋼業界全体が儲かりにくい構造になっていることを意味します。
原料費の高騰については日本製鉄の記事でも触れています。
- 過去最大の赤字は減損損失が原因
- 原料の鉄が高止まりしており利益が出ない
鉄鋼業界が目指すのは縮小方向
日本製鉄同様にJFEHDも高炉2基の一時休止など生産減の方向に進んでいます。
市況の悪化している商品を高い原価率で作り続けても利益にならないので、この方向性は致し方ないのです。
それに加え、JFEHDでは政策保有株式の売却が発表されました。

とにかく手元の収入がないため、2020年度末までに株式や不動産の売却等により1,500億円ほどのキャッシュを生み出すとのことですが、相当厳しいことがうかがえます。
- JFEも日本製鉄同様に生産規模縮小を目指す
- 保有株式の売却により手元の現金を増やす
中国発の市況悪化回避には商社事業の強化
鉄鋼市場にパラダイムシフトを起こした中国も、今回のコロナショックが直撃しており、生産減の方向に進みそうなものです。
市況悪化の原因は中国の供給過剰にあるとされるため、中国で生産が減れば市況が回復し、高止まりする原料価格も下がりそうですが、現状は以下の通りです。

一時、コロナウイルスによるロックダウン等で減少した生産量(緑線)や、輸出量(青棒)が3月になり急回復しています。
このように中国由来の供給過剰は未だ収まらず、今後も原料高・鉄鋼安という最悪の状況が続くことが予想されます。
JFEHDとしては強みでもある利益率の高い商社事業の強化が今後の経営基盤の安定と差別化に繋がります。
そこで海外における販路拡大のためJFE商事は、2014年に米大手の鋼管問屋Kelly社を買収しました。
さらに2019年にはインド大手のタタ・スチールのグループ企業から、カナダ大手の電磁鋼板加工会社コジェント・パワーの買収を合意にこぎつけています。
鉄鋼事業で大部分の利益を上げる構造から、海外販路の拡大により総合商社からシェアを奪う構造へ変革が出来れば厳しい経営環境を乗り切れるかもしれません。
- 中国の過剰生産は止まらない
- 原料高・鉄鋼安は今後も続く可能性大
- 海外販路開拓により高利益率の商社事業を拡大
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