【千代田化工建設】強みはLNGプラント?/綱渡りな経営状況と今後を解説!

企業分析

海外での工事遅れで大赤字となった千代田化工建設。LNGプラントに強みのある企業であるために、エネルギー需要の先行き不透明感により、更なる影響が出そうです。

そんな「千代田化工建設」の本決算が5月8日に開示されました。

今回は千代田化工建設の決算資料を読み解きながら企業研究していきます。


2018年度の赤字はなかなかのインパクトだったね…2019年度は黒字化できたみたいだし安心なのかな?

三菱商事が出資するってニュースを見たけど、千代田化工は助かったってこと?

景気が悪くなりそうだしプラントを作る企業も少なくなりそう…千代田化工は影響ないのかな?

企業プロフィール

沿革

歴史
  • 1948
    三菱石油の工事部門が独立し、千代田化工建設が設立
  • 1973
    日本初となる中東地域のLNGプラントを受注
  • 1997
    アジア通貨危機により赤字が急拡大
  • 2008
    三菱商事と資本業務提携
  • 2019
    三菱商事の連結子会社に

千代田化工建設の大元となる三菱石油は、現在合併を繰り返しJXTGHDとなっているため、JXTGHDは遠い親戚とも言えるでしょう。

設立当初は国内のエンジニアリング事業がメインで、三菱石油や東京ガスなどの製油所やLNG基地を設計~建設まで手掛けてきました。

2018年度には、社運を賭けた大規模プロジェクト「キャメロンLNG」にて、作業員確保等に苦戦した結果、工期遅れで大幅な追加費用を計上し、大赤字となりました。

規模

日揮や東洋エンジニアリングと並び、エンジニアリング御三家とも称される千代田化工建設は時価総額や売上において国内2位を誇ります(2020年5月現在)。

特にLNGプラントに強みがあり、現在は大半の工事が海外におけるLNGプラントの設計や建設になります。

LNGプラントとは、採掘された天然ガスから不純物を取り除き、冷却して液化する施設を指します。化石燃料に比べてCO2排出量が少ないことから、特にアジア圏を中心に需要が急拡大しています。

そのような海外案件の中には、現在進行中の「ゴールデンパスLNG」プロジェクトのような総額で1兆円にもなる国家規模の工事もあります。

平均年収と役員報酬

平均年収平均年齢
2018年度895万円41.0歳
2019年度848万円41.3歳

40前半の平均年収が400万円後半なので、かなり高めの水準と言えるでしょう。

取締役は12人で総額が1億5,600万円なので、単純に割ると1人当たり1,300万円です。

そのうち1億円を超える報酬を受け取っている人はいません。企業規模に対する報酬額が小さいことから、役員も身を切るほどの厳しい状況がうかがえます。

事業内容

千代田化工建設の抱える2つの事業
  • エンジニアリング事業
  • その他の事業

その他の事業には、人材派遣業や旅行業が含まれます。

エンジニアリング事業が売上のうち99%とほぼ全てです。その中でもLNGプラントに関する工事が55.2%と大部分を占めていることがわかります。

原油の暴落に見られるエネルギー需要の先行きが不透明な今、この事業ポートフォリオは短期的にはかなりキツいでしょう。

最終黒字達成も営業CFはマイナス

2018年度に完成工事総利益(粗利益)の段階で赤字を計上した状況から、2019年度は最終利益が122億円の黒字を達成する状況まで大幅に改善しています。

ただし、気になるのがキャッシュフロー(お金の流れ)です。

営業活動によるキャッシュ・フローが2018年度に引き続き、2019年度もマイナスとなっており、本業からお金が全く入ってきていないことが表れています。

いくら純利益が黒字で利益が出ていても、手元にお金が入ってこなければ利払いや返済が出来ずに”黒字倒産”の可能性すらあるのです。

千代田化工建設では、このように本業で無収入の状況が2019年度を含めて4年間続いています。

まとめ
  • 最終黒字も営業キャッシュフローはマイナス
  • 全く稼げていない状態が4年間継続

資金不足を助けた三菱グループの思い

全くお金が入ってこない状況の中で、2018年度に大赤字を出した千代田化工を助けたのが三菱商事でした。2019年9月に千代田化工建設の株を700億円分取得したのです。

それがキャッシュフローに表れています。2019年度の財務CF(紫色)がかなり大きいことがわかります。

常に営業CF(赤色)がマイナスで、手元から資金が減り続ける千代田化工はこの大幅な財務CFのプラスにより命を繋ぐことができたのです。

ちなみに2019年に三菱商事は突然手助けをしたのではなく、2008年に既に資本関係があった上でのものになるため、三菱商事としても助けるしかなかったというのが本音の一つかもしれません。

ただしあまり知られていませんが、千代田化工建設は三菱商事ら3社とAHEAD(次世代水素エネルギーチェーン技術研究組合)を2017年に共同で設立しています。

この組合は、2030年に国が本格導入を期待する水素発電に必要となる水素の輸送技術開発に取り組んでおり、この技術のカギとなる「SPERA水素®技術(有機ケミカルハイドライド法)」を開発したのが千代田化工建設です。

有機ケミカルハイドライド法では、水素を気体状で輸送すると非常に体積が大きく非効率なため、トルエンと反応させて体積約500分の1の液体MCHに変換します。その後、日本にMCHを常温・常圧で輸送し、脱水素プラントを介すことで、水素とトルエンに戻すという方法です。

2020年5月には、国内で初めて海外から輸送した水素を利用した発電を開始しており、千代田化工建設は次世代エネルギー”水素”のプラント建設で大復活する可能性を秘めているのです。

このように高いエンジニアリング技術と将来性を認めていることも、三菱グループが出資を継続した理由の一つでしょう。

まとめ
  • 三菱商事の出資で事業を継続
  • 三菱商事は2008年に既に一度出資しており資本関係あり
  • 国内初の輸入水素による発電開始

工事受注高が激減

三菱商事の傘下に入ることで何とか命を繋いだ千代田化工ですが、今後の厳しい雰囲気が工事受注高に表れています。

2018年度と比べて、ほぼ全分野で工事受注高が70~80%減少していることがわかります。特にその中でも千代田化工が強みとするLNGプラント関係が激減しています。

これは世界の先行き不透明感からエネルギー需要の減少を各社が見越し、大規模な工事を中止や延期したことを反映しています。

また、今後を見通す上でもう一つ重要なのが、2019年度の工事受注残高です。2018年度に大赤字を出した直接的な原因でもある「キャメロンLNG(最終盤)」を含め、主要案件が複数残っています。

一見すると「キャメロンLNG」より更に規模の大きい「ゴールデンパスLNG(進捗率12%)」が少し不安に思われるかもしれません。

しかし「ゴールデンパスLNG」においては、千代田化工の担当がリスクの比較的小さな設計と調達(建設を担当していない)なので、大きなリターンも見込めませんが、そこまで不安視する必要はありません。

ただし、「テキサス・エチレン(進捗率58%)」や「タングーLNG(進捗率80%)」においては、通常通り設計・調達・建設の全てを担当しており、更なる工期遅れが少し心配なところです。

このように工期遅れの大きなリスクを抱え、赤字を垂れ流したままでは流石にまずいので、三菱商事から経営改革のために人材派遣がなされています。

経営改革の中では、2030年を目途にEPC(設計・調達・建設を一貫して行う業務)の割合を半減することが目標に掲げられています。

それによりハイリスクハイリターンな分野を減らし、さらに先行き不透明なエネルギー分野の事業も縮小しようとしています。

ただ、LNGプラントで圧倒的な強さを誇る千代田化工にとっては武器を封じられるようなもので、どこまで現実になるか微妙なところです。

遠い親戚とも言えるJXTGも石油の需要低迷で苦境に立たされています。重厚長大産業の厳しい状況は続きそうです。

まとめ
  • 工事受注高が70~80%激減
  • 2030年までに強みのLNG関連工事の受注を減少予定

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