【旭化成】特徴は化学と住宅のバランス?/ヘルスケアへの積極投資実行中!

企業分析

サランラップのイメージが強く、他にどんな事業を営んでいるのかあまり知られていない旭化成。意外にも原油価格が影響する企業なのです。

そんな「旭化成」の本決算が5月12日に開示されました。

今回は旭化成の決算資料を読み解きながら企業研究していきます。


化学業界でコロナの影響ってあるの?もしかして原油価格の暴落も影響してるのかな?

旭化成と言えばサランラップのイメージだけど、んな分野に注力してるんだろう?

企業プロフィール

沿革

1933年に、延岡アンモニア絹絲株式会社が、日本ベンベルグ絹絲株式会社と旭絹織株式会社を合併し、社名を旭ベンベルグ絹絲株式会社としました。

その後、1946年4月に商号を旭化成工業株式会社に変更し、2001年に現在の商号である旭化成株式会社となりました。

沿革を見ることで、窒素化合物繊維に強みがあることがわかります。

また、旭化成にまつわるニュースと言えば、2015年に発覚した旭化成建材のデータ改ざんが挙げられます。過去10年間の杭打ち工事のうち約1割でデータ改ざんが行われており、信頼失墜が危惧されました。

規模

化学業界の中では売上高において業界首位の三菱ケミカルHDに2倍ほどの差を付けられ、4位に留まっています(2020年5月現在)。

ただし、旭化成は化学メーカーでありながら、利益の半分を化学以外の事業で稼ぎ出しているため、化学に関する売上を純粋に比較すると更に大きな差があります。

化学を様々な事業の一つとし、長期に亘る成長を達成しており、創業から一度も営業利益が赤字に転落したことがない非常に魅力的な企業です。

平均年収と役員報酬

平均年収平均年齢
2018年度787万円42.3歳

40前半の平均年収が400万円後半なので、かなり高めの水準と言えるでしょう。

取締役は11人で総額が4億5,800万円なので、単純に割ると1人当たり4,164万円です。

そのうち1億円を超えるのは現社長の1人で1億2,800万円です。

事業内容

旭化成の抱える4つの事業
  • マテリアル事業
  • 住宅事業
  • ヘルスケア事業
  • その他の事業

その他の事業には、プラントエンジニアリング、環境エンジニアリング、各種リサーチ・情報提供事業及び人材派遣・紹介事業等が含まれます。

稼ぎ頭はマテリアル事業ですが、住宅事業も大きなウェイトをしめていることがわかります。旭化成の住宅事業は旭化成ホームズが担当しており、ヘーベルハウスとして一般的に知られています。

アクリロニトリルとプロピレンの価格差で減益

2019年度の連結決算は売上はほとんど変わらない一方で、営業利益は△15.8%となっています。

営業利益を圧迫した一番の原因はセグメント別の利益を見ることで主力事業のマテリアル事業にあることがわかります。

次に、内訳に注目すると売値差、すなわち商品単位当たりの利益が小さくなった(市況が悪化した)ことにより利益が圧縮されたことが示されています。

旭化成のマテリアル事業は基盤マテリアル、パフォーマンスプロダクツ、スペシャルティソリューションの主に3つですが、最も利益額が大きいのは基盤マテリアル事業になります。

この基盤マテリアル事業は、旧来石油化学事業と呼ばれていたものであり、石油市況に左右されやすい事業なのです。

実際に四半期利益をセグメント別で見てみると、基盤マテリアル事業(旧石油化学事業)において2019年度第四四半期の利益が異様に小さいことがわかります。

ここで少しだけ化学的な話になりますが、基盤マテリアル事業で取り扱う商品の中にアクリロニトリル(C3H3N)があります。

このアクリロニトリルは、旭化成グループの世界に誇る事業であり、生産能力はアジア第二位、世界第一位です。そして、アクリロニトリルは石油精製の際に得られる、プロピレン(C3H6)から作られます。

つまり、旭化成からすると(アクリロニトリル価格ープロピレン価格=利益)という構造になっており、この利益(=スプレッド)が原油価格の変動により縮小したことが今期の利益圧縮の理由なのです。

ちなみに、第3四半期のスプレッドは675ドル/トン、第4四半期のスプレッドは596ドル/トンなので、この79ドルが利益に響いたことになります。

とは言うものの、事業が多岐にわたり分散されているため、この減益自体はそこまで問題ではないと思います。

まとめ
  • 石油化学事業で利益が棄損
  • エネルギー市況と景気によりマテリアル価格が大きく変動

ヘルスケア分野への積極的な投資

これまでマテリアル事業を全利益のうち50%を占める主力事業としてきた旭化成ですが、近年は更なる成長を目指した第二の柱「住宅」に次ぐ事業の構築を実行しています。

それが、現在では利益のうち10~20%を占めるほどのヘルスケア事業(医薬・医療・クリティカルケア)です。グローバル・ヘルスケア・カンパニーを標榜し、大規模な投資を着実に遂行しています。

この本気度が以下のキャッシュフロー計算書から伝わるかと思います。

2013年3月期2020年3月期にひときわ大きな財務CF(紫)と投資CF(緑)が目立ちます。主に財務CFは借り入れ、投資CFは株式取得を表しています。

2013年3月期には、約1,800億円で救命機器(クリティカルケア事業)を強みとするZOLLを、2020年3月期には、約1,400億円で腎臓移植後の拒絶反応を低減させる薬品開発のVeloxisを買収しています。

しかし、ZOLLの買収に対する市場の評価は芳しくなく、買収発表後に株価は6%下落しました。割高であったのはもちろんのこと、再生医療で沸き立つ時世に救命救急機器の企業を取得することに違和感を感じた投資家が多かったこともあります。

そんな悲観された買収でしたが、合否はクリティカル事業がヘルスケア事業の中で存在感を見せつけていることは数字を見れば明らかです。

ヘルスケア事業の大部分はクリティカルケア事業が稼いでいるのです。

このように投資を成功させた旭化成が、次に行った大規模な投資が2019年度のVeloxis買収なのです。発表の際には、過去の成功例も好感され、株価は急騰しました。

Veloxis社もZOLL社のようにヘルスケア事業の稼ぎ頭に育て上げることができれば、旭化成は3つ目の柱を持つことができ、次の成長ステージに進むことになります。

このようにキャッシュフローを見ることで、企業の目指したい方向とその本気度合いを見ることができるのです。

まとめ
  • マテリアル、住宅に続く第三の柱としてヘルスケアに注力
  • 積極的な買収が継続

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